ボード ✏️

どうして、あんなに楽しかったのだろう。

友人達と集まっては夜遅くまで談笑していた十代の頃。

もう30年より前になるのに、今でもよく憶えてる。

休日になると、みんなバイクに乗って山中の林道を駆け回ったり、転んだり…。

川原で悪ふざけして追われた友人は沢の中まで逃げ込んで、膝まで水に浸かった格好で「来いやー!」と叫んで笑ってた。

レストランのテラス席では、誰からとなく腕相撲を始める輩達。冬になると団地で暮らしていた年長の友人宅に集まり、みんなで鍋をつついて食べた。

ツーリングの帰り道、行きつけのバイクショップに寄ると二階にあった喫茶店でカレーをほお張っていた私。

携帯電話もパソコンも自動車も、何にもなかったけど、いつも心がやりたいことで詰まってた十代の頃…。

 

当時、勤めていた物流会社が借り上げて寮にしていた古いアパート。四畳半一間で一人暮らしをしていた十八の私。

年末の繁忙期、日付が変わるまで働いて帰りついた木造アパートの周りはとても静かで。玄関で靴を脱ぎ二階へと上がる。廊下に面した自室の扉の脇にいつも提げていたマーカーボードには、友人達の手書きのメッセージが残されていて…。

「また来るわ。仕事がんばりやぁー」みたいな…

(あぁ、みんな今日来とったんや。遅なってしもた。ゴメンやでぇ…)

一人っきりの深夜の帰宅。扉の前で、残業の疲れも和らいだ夜。

まだメールなんてなかった頃の、小さな思い出…。

差し入れ片手に友人達が遊びに来た時は、遅くまでよく談笑した。誰かれとなく疲れてウトウトしだしても、狭い部屋に四人も五人もいると寝るスペースも無く、それぞれコタツで身を丸めたり、ドラえもんみたいに押し入れで横になったり…。

どんなことにでも多感だった十代の日々、いつもつながっている誰かがいることがありがたかった…。

 

もう、何年ぶりだったろうか?

今年の正月、今でもずっと年賀状で近況のやりとりを続けている友人と電話で話した。

彼の年賀状には、かつて大阪のアパートに提げていたボードに書かれていたのとそれほど変わらない文字で、昨年私が住む福岡へ諸用で来たけれど、連絡がつかず会えなかった旨が書かれてあった。

気になってすぐに電話をすると、受話器の向こう側で懐かしい声がした。いつもバイクで駆け回っていた彼も、今では一男一女のお父さん。もう、下の娘さんも一人立ちしたそうだから、うちと同じで子育ても一段落されたみたい。

福岡と大阪で、お互い父親として元気に暮らす今。ただそれだけで嬉しくて、きっとまたいつか会えそうな気がした…。

 


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休日の夕方、帰宅すると妻が夕食の支度をしていた。今日は石狩風?な味噌仕立ての鍋物

鮭かま、豚肉、玉葱、人参、じゃがいも、しめじにネギ、あと小松菜も少々。

色々入った具だくさん。なかなかの豪快っぷり。

真夏に食べる鍋物も美味しいよね。

 

今は家に帰ると玄関に並ぶ家族の靴。ほっとして、でもちょっと窮屈なのがおかしくて。

少しイタズラして、玄関先にボードを提げてみたら、家族は何か落書きするのかな?

そこになにも書かれていなくても、私にはきっと見える文字がある。

いつも一生懸命で楽しかった、十代の頃の思い出のままにね…。