続けるということ

先日、大阪で暮らす長女からライン動画が届いた。わずか数十秒の動画が二つ。

観ると剣道の基本打ちの稽古をしている道場での様子が映っていた。メンとコテの打ち込み稽古。姿勢を崩さずしっかりと踏み込み、まっすぐに打ち抜いている。基本を意識したきれいな剣道をするようになったと思う。

八つの頃から剣道を始めた長女。親に似なくてもよいところほど、よく似て不器用な娘。足運びがうまくできず、動きの中でつい基本とは逆に、よく左足が前に出てしまっていた。

一度ついてしまった癖がなかなか治らず、道場の若い先生に注意されながら何度も何度も足さばきの稽古を繰り返していた。

中学生になり、試合に出ても一本がとれずに負けてばかり。それでも夕方部活が終わったあと、そのまま地元の道場へも通い黙々と稽古をしていた。本当に悔しかったのだと思う。

一時、頭に十円ハゲができていたくらい💧

負けても負けても、また負けても道場へ通っていた娘。

そんな折、道場の主任の先生がおっしゃっていた言葉を今でもよく憶えている。

「大切なのは勝つことでなく、勝つまでの過程」なのだと…。

 

地区大会の団体戦、みんなで力を合わせてライバル校に勝って優勝できた日、娘は泣いていた。

顧問の先生から「嬉しいのはわかるけど、いつまでも泣くな」と言われても、娘は泣いていた。

 

稽古は決して嘘をつかない。二年生になり、三年生になって、娘は試合でも勝ったり負けたりするようになっていた。実力のある選手にはかなわなかったけれど、いつからだろうか左足の癖も治っていた。

 

剣道推薦で進学した地元の高校では、二年生の時に一度だけ県大会の新人団体戦にメンバーで出たけれど、そのあとは一度もメンバーに入れず。三年生最後の大会では補欠に入ったが試合に出れず、手を叩き、声を出し、チームが気持ちを一つに味方の応援をしながら部活を終えた。試合には出れなくても仲間を応援し続ける娘を、誇らしく思えた日。

 

社会に出て会社勤めをするようになっても、剣道を続けている娘。20歳を前に独り暮らしをするようになってからも、車のハンドルを握り、幾つもの道場までの道のりを通った。

就職して5年が過ぎる頃、地元福岡を離れ大阪へと転勤になったが、ほどなく新しい道場を見つけた。何度となく合格できずにいた昇段審査も諦めることなく挑戦し続け、二年ほど前に四段に昇段した娘。電話の声は控えめだったけど、本当に嬉しそうだった。

遠く知らない町でも、沢山の人達に励まされ、叱られ、支えられて娘は成長してゆくのだろう…。

 

人の縁とはどこでどういうふうにつながっているのか?

昨年の春に結婚した婿さんとは、剣道の稽古先で知り合ったそうな。^-^

剣道の防具をまとった若夫婦。婿さんが元立ち(もとだち)になって娘にコテを打ち込ませていた。

夫婦で剣道。稽古の動画を観ていると、なんだかこういうのもいいなと思った。

 

試合に出ても次々に一本をとれる訳でもなく、これと言った実績も無い先輩だけど、いつか娘がふるさとの道場へと通う子供達に指導する機会があれば、きっと過程の大切さについても教えてあげられる、そんな人になれる気もする親バカな私。

 

もう、すっかり大きくなった娘達に教わることも少しずつ多くなってきた最近の妻と私は、時々せわしくも一生懸命だった子育ての日々を思い出す。

娘を応援していたつもりが、本当はその頑張り続ける姿に自分が応援されていた日々。

そんな毎日をやみくもに続けていた日々の連なりが、やけに懐かしい。笑ったり、泣いたり、怒ったり、励ましたり…。

たくさんがつまったあの日々、今も大切な今日につながってきた日々…。

 

スマホの画面に映し出された、わずか数十秒の動画。

まっすぐにメンを打ち抜く娘の姿が、力強く見えた。

不器用だった娘が、

       とても力強く見えた…。